Aさん(40代・男性)の鼠径ヘルニア体験談
監修:帝京大学医学部附属病院 外科学講座 教授
日本ヘルニア学会 理事
三澤健之先生
Aさん(40代・男性)
鼠径ヘルニアは生活の質を下げてしまう病気ですが、負担の少ない手術で治療できることを知ってほしいです。
「恥ずかしい」と放置した鼠径ヘルニア。気づけば毎日が不便に
最初に鼠径ヘルニアの症状に気がついたのは、20代半ばのときです。左ももの付け根がときどきふくらんだり、つっぱったりするようになり、違和感を覚えました。
症状が出始めた頃はふくらみが小さかったこともあってそこまで気にしていなかったのですが、徐々に進行していき、ふくらみの大きさや不快感の程度が増していきました。
症状が出るようになってから2年が経つ頃には、立ったり座ったりするたびに腸が飛び出すのが日常茶飯事になっていました。
腸がヘルニアの穴(ヘルニア門)から落ちていくヌルっとした感覚や腸が挟まっている感覚などを気持ち悪く感じていましたが、ふくらみは押せば引っ込むので我慢しながら生活していました。
また旅行で温泉に行った際も、腸が飛び出さないよう姿勢に気をつけたり、ふくらんだらすぐに手で押し戻したりと、周りの人たちに鼠径ヘルニアだと気づかれないように振る舞っていました。
症状が出る以前から「脱腸」という言葉は聞いたことがありましたが、「鼠径ヘルニア」という病名は知りませんでした。
脱腸という病気については「足の付け根がふくらむだけで、命に関わるものでない」と軽く考えていたため、すぐにでも医療機関を受診しようとは思いませんでした。また、「脱腸=恥ずかしい」というイメージもあり、周囲に病気のことを言いづらいと感じていました。
そのため同僚や親しい人たちに鼠径ヘルニアのことは打ち明けておらず、妻にも「たまに脱腸になることがあるけれど、たいしたことはないよ」と症状を軽く伝えていました。
症状が出てからも鼠径ヘルニアについて自分から積極的に調べることはありませんでした。当時は自宅にインターネット環境がありませんでしたし、わざわざ本で調べようとも思いませんでした。
そもそも体調不良があっても進んで病院へ行くタイプではありませんでしたし、仕事が忙しかったこともあって受診を後回しにしていました。自分が病気であるという事実から目をそらしたくて、「我慢すればいい」と言い聞かせていた部分もあったと思います。
医師の言葉で鼠径ヘルニアの治療に向き合えた
鼠径ヘルニアの症状に気づいてから2年が経過したころ、ときどき左膝に痛みを覚えるようになりました。そこで、地域の総合病院の整形外科を受診することに決めました。
整形外科での診察の際に「鼠径ヘルニアが膝の症状の原因かもしれない」と医師から告げられ、外科を受診するよう勧められました。そこで同じ病院の外科を紹介してもらい、その日のうちに受診することになったのです。
外科の医師からは「鼠径ヘルニアがかなり進行しているので、手術をしないと治らない」と診断され、どのような手術を行うのか説明を受けました。
鼠径ヘルニアの手術は切開する長さも4~6cm程度と侵襲が小さく、処置の内容もヘルニアの穴をメッシュ(人工物)で閉じるというもので、そこまで大がかりな手術にはならないと知りました。また、手術の際には麻酔をするため、手術中に痛みを感じることはないともわかりました。
やはり医師から言葉をかけてもらったことで「鼠径ヘルニアが治り、不便な思いをしなくて済む生活」がリアルにイメージできるようになりました。治療に対する不安よりも「この症状がなくなる!」という期待のほうが大きくなり、すぐに手術を受けることに決めました。
仕事を休む必要があったため、手術をすると決意してから職場の上司に「自分は鼠径ヘルニアである」と初めて打ち明けました。その後、仕事のスケジュールなどを調整し、受診からおよそ2週間後に手術を受けることになりました。
以前の生活を取り戻し、活動的な日々に
手術のあとは3~4日程度(1入院しました。切開した傷の痛みはあまりなかったのですが、手術で体力を消耗したため全身に倦怠感は残りました。
また、「鼠径ヘルニアは治った」と頭ではわかっていても、入院中に病院内を移動する際には「何かの拍子にまた腸が脱出するのではないか」という不安がつきまとっていました。ただ、その後鼠径ヘルニアの症状が出ることはなく、退院するころには体力も回復していました。
退院後はスムーズに日常生活へ戻ることができ、職場復帰にも支障はありませんでした。
鼠径ヘルニアの症状があったころは、腸が飛び出す状況に慣れきっていて、病気になる前の生活がどのようなものだったのか忘れかけていました。手術によってかつての生活を取り戻せたことは、本当に嬉しかったです。
鼠径ヘルニアのことを気にしなくてもよくなったため、手術前よりも気分よく外出できるようになったり、物を運ぶなどの動作を気軽にできるようになったりと、より活動的になりました。
また、受診のきっかけになった左膝の痛みも、手術のあとに改善が見られました。
メディコン(2に転職したのちに鼠径ヘルニアの経験について他の医師に話す機会がありましたが、その際に「左膝に不調が出たのは、もしかしたら鼠径ヘルニアによって歩き方が不自然になっていたことと関係があったかもしれない」と言われました。
手術を受けてから20年ほどが経ちましたが、今に至るまで鼠径ヘルニアは再発していません。
(1 最近では入院期間もさらに短縮され、病院によっては日帰り手術も可能になっています。
(2 Aさんは2025年現在、そけいヘルニアノートを運営する医療機器メーカー・株式会社メディコンに社員として勤めています。本インタビューでお話いただいた体験談は、入社前のものです。
鼠径ヘルニアは負担の少ない手術で治ると知ってほしい
鼠径ヘルニアを発症してから病院を受診するまでの2年間は、腸が飛び出さないように姿勢を変えたり、飛び出したら手で押し戻したりしなければならない不便な生活を送っていました。
今振り返るとかなり不自然な状態に陥っていたのですが、いつのまにか慣れてしまっていたのです。
しかし、きちんと治療を受けたあとは、そのような状態でいることは自分にとってよくないことだったと気がつくことができました。
鼠径ヘルニアは手術をすれば治る病気です。治療を受ければ日々感じていた「また腸が飛び出すかもしれない」という不安からも解放されます。
「脱腸なんて恥ずかしい」「命に関わる病気ではないから、我慢すればいい」と思っている方もいるかもしれませんが、ひとりで悩まずに、早めに医師へ相談することをお勧めします。
そして負担の少ない手術で治る病気であると知ってもらえたらと願っています。
※本記事の内容は個人の感想であり、治療の効果を保証するものではありません。