鼠径部ヘルニアの診断
※ 記事中イラスト:サイト監修の蛭川浩史先生より提供
鼠径ヘルニアの画像検査
診断は、鼠径部が立位ではっきりと膨らんでいることが確認できれば、かなりの確率で鼠径ヘルニアと診断されます。かなりの確率で、というのは、鼠径部には、鼠径ヘルニア以外にも膨らむ疾患があるからです。
特に、精索脂肪腫、精索水腫または陰囊水腫、ヌック管囊腫、鼠径部子宮内膜症、精索静脈瘤などの、ヘルニア類似病変(ヘルニアに似ている病変)を区別する必要があります。
これらは、超音波検査や腹部CT検査などで、より正確に診断されます。
超音波検査は最も簡単で侵襲の少ない検査ですが、検査している本人にしか、よくわからないという面もあります。
CT検査は、より客観的な画像検査です。CT検査では、より膨らみをはっきりさせるため、うつ伏せで撮影する場合もあります。
時に、症状がなかった別の疾患が発見される事があります。
ヘルニア類似疾患について
精索脂肪腫
鼠径部に、主に腹膜外腔の脂肪織が腫瘤状になって飛び出してくる疾患です。
鼠径ヘルニアを合併している場合と、鼠径ヘルニアがなく、脂肪腫のみが脱出している場合があります。鼠径部に脂肪の塊を触れるので、体表からの触診だけでは、これらを正確に区別することは難しいです。
脂肪織が脱出しているだけの場合は、現在の我が国の定義では、鼠径ヘルニアとは診断されませんが、脂肪腫を摘出すると、腹壁に大きな穴があいた状態となるので、ヘルニアと同様の治療が必要となります。
鼠径ヘルニア修復術を行ったとき、脂肪腫の切除が不十分だと鼠径部に膨らみが残ってしまい、ヘルニアの再発とされる事があります。
残った脂肪腫がまた大きくなってくる場合も再発と診断されてしまいます。脂肪腫は完全に摘出する必要があります。
精索水腫または陰囊水腫、ヌック管囊腫
子供の鼠径ヘルニアは、生まれつき腹膜が、鼠径部で袋状に残っていることが原因となります。腹膜の残り方には、個人差があります。
内鼠径輪で大きく残ってしまった場合は、ヘルニアになりますが、内鼠径輪には、残っていないのに、鼠径管内に袋が残ってしまう状態になる事があります。このとき残った袋の中に体液がたまる事があり、これを水腫、嚢胞などと言います。水腫のある部位によって、精索水腫、陰嚢水腫と診断されます。
これらは、ヘルニアではありませんが、腹膜が生まれつき鼠径部に残っていることが原因なので、鼠径部のわずかな腹膜の残りが、長い間の内に鼠径ヘルニアになってしまう事はあります。
ヌック管嚢胞とは、女性の鼠径部にある円靭帯に腹膜の残りが見られるもので、男性の精索水腫のように、液体がたまり膨らみます。はじめに報告したアントン・ヌックという解剖学者の名前がついています。
男性の精索水腫と同様に、鼠径ヘルニアを合併している場合や、長い間の内に鼠径ヘルニアになってしまう場合もあります。
生理周期と一致して膨らむような方は、鼠径部子宮内膜症の場合があります。治療は、嚢胞を切除する事が最も確実な方法です。子宮内膜症と診断された場合は、婦人科での治療が行われます。症状が強くなければ、放置でもかまいません。
女性では、妊娠中、鼠径部の円靭帯の静脈がうっ血し、ヘルニアのように膨らむことがあります。
精索静脈瘤
精索静脈瘤とは、睾丸の静脈血のうっ滞によって、睾丸の静脈が、こぶ状に膨らんだものを指します。度合いにもよりますが、場合によっては陰嚢に痛みを感じることがあります。
鼠径部から睾丸にかけて膨らみを触れますが、鼠径ヘルニアとは全く関係のない疾患です。
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