鼠径部ヘルニア(脱腸)とは
監修:みやざき外科・ヘルニアクリニック 院長 宮崎恭介 先生
鼠径部ヘルニア(脱腸)とは
「鼠径(そけい)」部とは、脚の付け根の部分のことをいい、「ヘルニア」とは、体の組織が正しい位置からはみ出した状態をいいます。
「鼠径部ヘルニア」とは、本来ならお腹の中にあるはずの腹膜や腸の一部が、鼠径部の筋膜が弱くなって筋肉の隙間から皮膚の下に出てくる病気です。俗に、「脱腸」とも呼ばれています。
鼠径部ヘルニアの症状
初期症状は、立った時やお腹に力を入れた時に鼠径部の皮膚の下に腹膜や腸の一部などが出てきて柔らかい膨らみを感じます。普通は、指で押さえると、または、横になるとその膨らみは引っ込みます。
ほかにも下記のような初期症状が、時々起こります。
- 突っ張り感
- 不快感や違和感
- 内臓が引っ張られる感覚
- 便秘など
放置しておくと、危険な「嵌頓」状態になってしまうことも?
膨らみが急に硬くなったり、膨れた部分が押さえても引っ込まなくなることがあり、お腹が痛くなったり、吐いたりすることもあります。
これをヘルニアの嵌頓(かんとん)といい、急いで手術をしなければ、数時間で腸が壊死し(腸が腐る)、命にかかわることもあります。
嵌頓状態は、ヘルニアを放置しておくとなってしまう可能性があるので、早めの受診が必要です。
初期の鼠径部ヘルニアは痛みなどの症状もあまりなく、病気の場所から「恥ずかしい病気」のイメージがあり、受診をためらう患者さんが多くいらっしゃいます。
しかし、鼠径部ヘルニアは年間約15万人の方が治療を受けている、最も多い外科手術です。盲腸や胆石以上に多くの方が治療している病気でもあります。
痛みも少なく短期入院で済む手術方法が普及してきており、生活の質を考慮すれば、積極的に治療した方が良い病気です。
鼠径部ヘルニアが疑われるような症状に気づいた方は、一人で抱え込まずに外科、消化器外科に早めに受診しましょう。(ヘルニアの症状がある場所から、「泌尿器科」、「婦人科」を間違って受診される患者さんがおられるようです)
鼠径部ヘルニアの検査
病院では通常、医師は問診のあと、患者さんに咳などをしてお腹に力を入れてもらったり、手で膨らみの部分を触りヘルニアの状態を調べます。場合によっては、超音波検査やCT検査など他の検査を行うこともあります。
鼠径部ヘルニアの原因
鼠径部ヘルニアは加齢により筋膜が弱くなることが原因とされています。筋膜が弱くなり、お腹の中の臓器が飛び出てくることで鼠径部ヘルニアが起こります。
治療をせずに自然に治ることはありませんので、やはり外科、消化器外科に早めの受診が必要です。
鼠径部ヘルニアの3つのタイプ
鼠径部ヘルニアはお腹の中の腹膜や腸が出てくる場所(穴)の違いで、3つのタイプに分かれます。
- 外鼠径ヘルニア
鼠径管※のトンネルを通り、鼠径部の外側から出てくるタイプ。鼠径部ヘルニアで一番多いです。 - 内鼠径ヘルニア
鼠径管を通らず、鼠径部の内側から出てくるタイプ。高齢の男性に多く見られます。 - 大腿ヘルニア
大腿管と呼ばれるトンネルを通り、鼠径部の下側から出てくるタイプ。中年以降の女性に多くみられます。出産を多く経験した痩せ型の女性に多いと言われています。大腿ヘルニアの発生率は少ないですが、嵌頓になる可能性が高いとされています。
※鼠径部にあるお腹の中と外をつなぐ筒状の管。男性では睾丸へ行く血管や精管(精子を運ぶ管)が、女性では子宮を支える靱帯(じんたい)が通っています。
鼠径部ヘルニアになりやすい人
鼠径部ヘルニアは40歳以上、特に60歳前後の男性に多くみられます。女性の場合は男性に比べ少ないですが、20~40歳の外鼠径ヘルニアが多い傾向があります。
下記に当てはまる人も、筋膜が弱くなりやすいため注意が必要です。
- 重たい物を持ち上げる、立ち仕事の多い方
- 便秘症や前立腺肥大の方
- よく咳をする方
- 肥満や多産もしくは出産後の方
- 喫煙する方
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