鼠径部ヘルニアの手術方法

監修:立川綜合病院 外科 蛭川浩史 先生

 記事中イラスト:サイト監修の蛭川浩史先生より提供

手術方法

手術方法は、術式の特徴から、いくつかの種類に分類できます。代表的な分類としては、以下のようになります。

1. 修復法による分類

1)人工物(メッシュ)を使用しない方法
2)人工物(メッシュ)を使用する方法
  ① メッシュを置く部位による分類
    a) オンレイ法
    b) メッシュ・プラグ法
    c) 腹膜前修復法

2. アプローチ方法による分類

1)鼠径部切開法
2)腹腔鏡手術
   TAPP法
   TEP法
   LPEC法
   ロボット手術

それぞれについて、解説します。

1. 修復法による分類 1)メッシュを使用しない方法

鼠径部ヘルニアは、小児と大人では、原因が異なります。

小児のヘルニアは、生まれつき腹膜が鼠径部から突出して袋状に残ってしまっていることが原因です。周りの組織は弱くなっていません。

よって、小児のヘルニアでは、この袋を縛ってしまえば治ります。鼠径部を小さく切開して突出した腹膜を見つけ、これを縛ってしまうのが、小児の鼠径部ヘルニアの一般的な方法です。メッシュは全く必要ありません。

現在では、後述する様に、腹腔鏡で行われる場合も増えてきました。

大人になると、鼠径部ヘルニアは、加齢とともに、元々ある腹壁の隙間が広がる場合や、組織が弱くなることが原因となって発症します。

したがって、治療方法は、広がってしまった部分や弱い部分を補強することが目的になります。弱い部分を補強するために、ヘルニアの周りの丈夫な腱膜組織をかぶせるように縫い合わせ、ヘルニアの穴を塞ぎます。

これが、メッシュを使用しない方法です。組織縫合法ともいいます。

当たり前の事、のように思えますが、これは、ヘルニアという疾患の解剖学的な背景が少しずつわかってきた事で、近代の著名な天才外科医が、ようやく、19世紀ころに、考え出した方法です。その方法は、つい30年ほど前まで、我が国のメインの治療方法でした。

組織縫合法には、様々な術式があります。

単純にヘルニア門を縫い縮めるだけのもの、周囲の腱膜でヘルニア門を被うように縫い合わせる方法、いったん筋膜や腱膜を切開して何重にも縫い合わせる方法など、様々です。

我が国では腱膜でヘルニア門を被うように補強する術式が最も多く行われてきた術式です。欧米のガイドラインでは、筋膜や腱膜を切開して何重にも縫い合わせる方法が推奨されています※1

ヘルニアの周りの丈夫な組織を縫い合わせるとはいえ、腹圧で広がった組織を縫い合わせるので、頑丈な補強はできず、また縫ったところには、当然のことながら緊張がかかります。

患者さんは、痛みと緊張で、手術した直後も、傷が開かないかどうか心配です。痛くて息めませんし、咳もできません。かつては、術後、患者を1週間程度、ベッド上で安静にさせる外科の先生もいました。

術後に様々な工夫を凝らしても、この方法は、再発率が高く、術後のつっぱり感や、緊張感、痛みが強い方法でした。

インターナショナルガイドラインで推奨されている、筋膜や腱膜を切開して、切開した膜を何重にも縫い合わせる方法は、再発率が低く、非常に優れた成績が報告されています※2

鼠径部ヘルニアの嵌頓で緊急手術を行った場合、腸が腐っていたり、穿孔(穴があくこと)を起こしている場合、メッシュは使用しません。

メッシュの細菌感染の危険が高くなるためです。この場合は、ヘルニアの修復に、組織縫合法が用いられます。

※1 HerniaSurge Group. International guidelines for groin hernia management. Hernia 22: 1-165, 2018

※2 HerniaSurge Group. International guidelines for groin hernia management. Hernia 22: 1-165, 2018

1. 修復法による分類 2)メッシュを使用する方法

1990年代に入り、ヘルニアの治療に、弱くなった組織を無理に縫い合わせて補強するのではなく、メッシュという人工物で補強する方法が報告されました。

ヘルニアを人工物で被ってしまう方法であり、弱くなった組織を使用する事はありません。

また、広がったヘルニアを人工物で被うため、緊張がかかりません。メッシュの登場で、ヘルニア術後の痛みや、再発率が激減しました。

メッシュ、というのは、人工的な網です。”メッシュ素材のTシャツ”などが流行したことがありますので、メッシュと言う言葉は、聞いたことがあるかもしれません。

網戸の網のようなものです。素材も、ポリプロピレンやポリエステルなどの化合物で、網戸や漁網、ロープなどに使用されています。

これらの化合物は、熱や化学薬品につよく、体の中でもほとんど変化しません。また、溶け出して病気の原因になったり、アレルギーを引き起こしたりする事もありません。

海外では50年以上前から使用されていますが、メッシュによる悪性腫瘍や、アレルギーや関連疾患の報告はありません。体の中に埋め込んでも、極めて安全なものです。

ただ、異物(体の中のものではないこと)であることは確かなので、細菌感染には、とても弱く、感染の危険のある状況では使えません。

一方、異物の周りには、それを排除しようとする体の反応が起こります。いわゆる炎症反応です。

体はこの異物を取り除こうとしますが、メッシュが大きすぎて、取り除けません。すると、次にこれらを包み込んでしまおうとします。

このため、メッシュの周りにはたくさんの結合組織(線維)ができ、これを包み込みます。メッシュの素材の織り目の隙間にも、結合組織が入り込み、あたかも一枚の膜状の構造物のようになります。

この線維化により、メッシュは硬い、丈夫な筋膜状構造として、ヘルニアを補強します。

メッシュそのものは、非常に薄い、柔らかい素材ですが、この線維化により、強い腹圧にも耐えられるような強度が出ます。メッシュ自体が柔らかいため、線維化で強度がでても、硬いものが入っているというような異物感は、全くありません。

つまり、メッシュの強度だけでヘルニアを補強するのではなく、メッシュの強度と、メッシュの周りの炎症反応による線維化という、二つの働きでヘルニアを補強するわけです。

メッシュは、鼠径部ヘルニアを治療するための、万能選手のように考えられてきましたが、メッシュによる独特な合併症(慢性疼痛など)が、出現する事がわかってきました。これは後から述べます。

先ほども述べましたように、メッシュは異物で、細菌感染のある状態では、使用できません。

鼠径部ヘルニアが嵌頓して腸が腐っていたり、腹膜炎を起こしているような状態では、メッシュを使えません。

この場合は、メッシュを使用しない方法を用いてヘルニアを修復するか、いったん嵌頓のみを解除しておいて、後ほど手術をやり直すという、二つの選択肢が考えられますが、絶対的な方法はありません。

2. アプローチ方法による分類 1)鼠径部切開法

鼠径部を切開する手術方法です。ヘルニアの膨らんだところを切開し、ヘルニアの穴(ヘルニア門)を見つけて、補強する手術を行います。

皮膚切開は、4-6cm程度ですが、ヘルニアの大きさ、手術の術式、患者さんの体型によって、切開部位や切開の長さが異なります。これから述べる腹腔鏡手術に対し、開腹による手術といわれることがあります。

厳密には、開腹(腹腔内に到達すること)しない場合も多いので、開腹手術ではありませんが、わかりやすく、開腹手術といわれています。

ヘルニアの穴を補強するために、前述の組織縫合法かメッシュによる補強が行われます。

鼠径部切開法で、メッシュを使用する方法について

鼠径部切開法で、メッシュを用いて鼠径部ヘルニア修復術を行うのは、現在の標準的な治療方法の一つです。メッシュを鼠径部のどこの部位において補強するのかで、術式が異なります。

それぞれの部位に適したメッシュが開発されています。それらを概説します。

a) オンレイ法

最も単純で、世界的に最も多く行われている方法が、オンレイ法(Lichtenstein法)です。

オンレイ法

ヘルニアの穴とともに鼠径部全体を、メッシュで被う方法です。メッシュは鼠径部の外側に置かれます。鼠径床という構造の上をメッシュで被って補強するのでオンレイと言われます。

非常に単純な術式で、使用されるメッシュも安価なシート状のメッシュですが、再発率が低く、世界のヘルニア手術の標準的な方法です。

2018年に発表された鼠径部ヘルニア治療のインターナショナルガイドラインでも、メッシュを用いた鼠径部切開法の治療方法として、推奨されています※3

我が国では、あまり多く行われてきませんでしたが、インターナショナルガイドラインが発表されてから、行う施設が増えてきました。

※3 HerniaSurge Group. International guidelines for groin hernia management. Hernia 22: 1-165, 2018

 

b)メッシュ・プラグ法

折りたたみ円錐形にしたプラグと呼ばれるメッシュを、ヘルニアの穴(ヘルニア門)に挿入し、補強する方法です。我が国に最も早く導入されたヘルニア用メッシュセットであり、簡単で理解しやすい術式だったことから、我が国では最も多く行われてきた術式です。

腹膜前修復法

その後、様々なメッシュが開発されたこと、プラグの挿入による様々な合併症の報告が見られたことなどから、近年、行う施設は以前より少なくなってきています。

しかし、再発症例や、ヘルニア門の小さな大腿ヘルニアなど、一部の症例に対しては、有効な術式として、積極的に用いられています。

 

c)腹膜前修復法

鼠径部の、筋肉の層と腹膜の間にメッシュを挿入して補強する方法です。

腹膜前修復法

腹膜の前にメッシュを置くので、腹膜前修復法とか、腹膜外修復術と言われます。また、筋肉の層の後ろなので、筋層背側修復術と言われることもあります。

この方法は、数cmの大きさのヘルニア門から指やガーゼなどを用いて、腹膜の前に8×8cmくらいの大きさのスペースを作り、このスペースにメッシュを挿入するというものです。

鼠径部のヘルニア門を、腹膜側から補強するため、腹圧によって、メッシュが強くヘルニア門に圧迫されます。欠損部を補強する方法としては、力学的に理にかなった方法と考えられています。

頑丈にメッシュを固定しなくても、メッシュが自然とヘルニア門に密着するため、メッシュの固定に伴う術後の痛みは少ないとされています。

直接ヘルニア門にアプローチする術式なので、一般的に、皮膚切開はオンレイ法より小さくても手術をすることができます。

この術式用のメッシュとして、様々な形状のものが開発されています。術式はやや困難で、慣れが必要です。

挿入されたメッシュがきちんと広がっているかどうかを、鼠径部から確認する方法はありません。

アプローチ法は異なりますが、腹腔鏡手術も腹膜前修復術の一つです。

 

2. アプローチ方法による分類 2)腹腔鏡手術

腹腔鏡手術

腹部の構造を、ざっくりと大きく捉えると、いくつかの層構造に分かれています。

腹壁の最も外側は、皮膚です。その下には皮下脂肪があり、筋肉があります。筋肉の下にも脂肪層があり、腹膜があります。腹膜に包まれた空間が腹腔(内)です。腹腔というのは、お腹の中、と言うような意味合いです。

お腹の中には、内臓があります。この内臓が収まっている空間が腹腔内です。

腹腔鏡とは、腹腔内に入れて、観察するための、細い手術用のカメラです。2mm程度の極細のカメラから10mm程度のものまで、様々な種類がありますが、一般に手術に用いられるのは、5mmあるいは10mmの太さのものです。

鼠径部ヘルニアに対する腹腔鏡手術は、鼠径部を切開せず、腹腔鏡で腹腔内を観察しながら、細い鉗子で手術する方法です。

基本的に、お腹に、スコープ用、両手の鉗子用の計3カ所の小さな穴をあけ、ここにアクセス用のポートを差し、このポートからスコープや鉗子を挿入して手術を行います。

ポートは、5mmから10mmの太さで、お腹の傷は、このような小さな穴が開くだけなので、目立たず、術後の痛みも少なく、復帰も早いとされています。技術的には難しい手術で、誰でも簡単にできる手術ではありません。

腹腔鏡手術は、傷が小さいと言う整容性の面での利点があります。

できるだけ小さな、できるだけ少ない切開創で行う事が整容性に優れていると言う考えから、3つのポートを一つの切開孔から差し込んで行う方法(単孔式手術)や、2つを一つの切開孔からもう一つを別の切開孔から差し込んで行う方法など、切開孔を減らす工夫も行われています。3つの穴で行う方法よりさらに技術的に困難になります。

腹腔鏡下鼠径部ヘルニア修復術には、いくつかの種類があります。それぞれの術式の概略をご紹介いたします。

TAPP法
腹腔鏡手術

ポートを腹腔内に差し込み、腹腔鏡で腹腔内から、ヘルニアのある鼠径部を観察します。

これだとほとんどの場合、ヘルニアのある部分は、一目瞭然です。

先ほど述べたように、腹腔内は、腹膜によって被われています。腹壁の内側に、腹膜という壁紙が貼ってあるイメージです。ヘルニアのある部分は、腹壁に穴があいていて、腹膜ごと外側に向かって飛び出しているところが観察できます。

腹腔鏡下鼠径部ヘルニア修復術では、この飛び出している腹膜を、ヘルニア門の部分でくりぬいて、さらに、その周りを、壁紙を剥がすように腹壁から剥がしてしまいます。この剥がした部分に大きなメッシュを置き、数カ所固定します。最後に剥がした腹膜を縫い合わせてメッシュが腹腔内に飛び出さないようにします。これが、TAPP法の概略です。

鼠径部には、ヘルニアになりやすい部位が、3カ所あります。外鼠径ヘルニアの出る部分、内鼠径ヘルニアの出る部分、大腿ヘルニアの出る部分の3カ所です。

腹腔鏡手術では、これらの3カ所を直接観察しながら、すべて一つのメッシュで被ってしまいます。

TEP法

TAPP法が、いったん腹腔内に腹腔鏡を挿入するのに対し、TEP法は、腹腔内には腹腔鏡を入れず、筋層と腹膜の間(壁と壁紙の間)に、いきなり腹腔鏡を挿入して手術を行う方法です。

メッシュ・プラグ法、腹膜前修復法

この筋層と腹膜の間のスペースを腹膜外腔と言います。

TEP法では、腹膜外腔に、炭酸ガスを吹き込みながら、鉗子を用いて広げていき、鼠径部の広い範囲を剥がし、広い空間を作ります。剥がす範囲は、TAPP法と同じです。

ただ、ヘルニア門から、ヘルニアが脱出している部位の操作は、TEP法独特の方法が必要です。これを単にくりぬいてしまうと、”腹腔内”に炭酸ガスが漏れて、筋層と腹膜の間の空間が潰れてしまい、手術ができなくなってしまいます。ヘルニア門から飛び出している腹膜を、穴を開けないように剥がして、縛ってしまう必要があります。

TEP法は、腹腔内に入らずに手術を行うので、腹腔内に入って手術を行うTAPP法に比べて、内臓の損傷や術後の腸の癒着による腸閉塞の発生が少ないとされています。

また、腹膜と腸に癒着があるときは、TAPP法は行いにくいのに対し、TEP法は腹腔内の癒着は関係なく手術ができます。

一方で、腹膜外腔という、見慣れない空間を手術するので、難しく、慣れるまで、時間がかかります。いったん腹膜に穴が開いてしまうと、腹膜外腔が潰れてしまい手術ができなくなってしまいます。

また、大事な血管を傷つけることも多いとされています。

TAPP法と、TEP法のどちらが優れた術式か

この議論は古くから行われてきました。結論から述べれば、慣れた外科医が行うのであれば、成績はどちらも変わりありません。

インターナショナルガイドラインでも、腹腔鏡下鼠径部ヘルニア修復術は、エキスパートが行うのであれば、推奨される術式であるとしています。※4

慣れた外科医、エキスパートが行うのであれば、という点が問題で、慣れていない外科医は、十分な指導のもとで手術をする必要があります。

※4 HerniaSurge Group. International guidelines for groin hernia management. Hernia 22: 1-165, 2018

LPEC法

小児の鼠径部ヘルニアに対する術式として、我が国の小児外科医、嵩原裕夫先生が考案され世界に広められた方法です。

この方法では、細径の腹腔鏡で腹腔内から鼠径部を観察しつつ、体外から特殊な器具を用いて、糸を腹膜外腔に誘導します。

次に、この特殊な器具で糸を腹膜に沿ってヘルニア門全周に沿わせ、最後に腹膜を縛ってしまいます。

小児の鼠径部ヘルニアは、腹膜の突起の遺残がヘルニアの原因なので、このように、ヘルニア門で腹膜の突起を縛ることでヘルニアは治ります。メッシュは使用しません。

鼠径部切開法で、腹膜の突起状の遺残を縛る方法を、腹腔鏡下に行うのが、この方法と言えます。

傷が小さく、整容性がよいことから、最近では若い成人女性に対しても適応が広がってきており、良好な成績が報告されています。

さらに、成人男性でもLPEC法で治癒する症例の報告があることが解明されてきており、メッシュを使用しない、低侵襲な術式として、今後も適応が広がる可能性があります。

ロボット手術

ロボット手術といっても、SF映画のように、外科医の姿をしたロボットが手術を行うわけではありません。

人間が動かす精密手術補助機器のことを指します。基本的には、腹腔鏡手術ですが、カメラはハイビジョン3Dシステムで、人間が肉眼で見るより遙かに細かく詳しく見ることができます。

また、両手の鉗子は機器を操作している外科医の手と同じように動かすことができるばかりでなく、手ぶれ補正や、モーション補正と言う機能で、動きの精度や速さを調節できます。

また、操作する外科医の手と同じように動くため、腹腔内での操作を、直感的、かつ正確に行うことができます。

通常の腹腔鏡システムは2Dで、立体感のない平面の画像です。また、鉗子は、腹壁に刺したポートから腹腔内に入れて操作するため、この部分で固定されてしまっています。

このため、鉗子は直線的にしか動かすことができず、動きに制限が多く、自由自在には動かせません。腹腔内での操作は非常に限られた操作となり、エキスパートの先生の動きをまねるのは容易ではありませんでした。

ロボットでは、ポートで鉗子が固定されているのは同じですが、鉗子の先端を、ロボットを操作している外科医の手首と同じように動かすことができます。これがロボット手術の最大の利点です。

特に、腹腔内で何かを縫う操作を行う場合、ほとんど直感的に操作を行う事ができます。

最初に保険適応となったロボット手術は前立腺全摘術です。この手術では、前立腺を切除した後、細い尿道を、狭い骨盤の底の悪い視野のもとで縫い合わせる操作を行います。このような操作は、ロボットの真骨頂、本領発揮です。

その後、我が国では少しずつ、ロボット手術の適応が広げられてきています。

鼠径部ヘルニア修復術に対しては、まだ、保険適応がありませんが、我が国では一部の施設で導入されています。鼠径部ヘルニアに対し、通常の腹腔鏡下修復術と比べて、どのような利点があるのかは、まだよくわかっていません。

手術の麻酔について

手術の麻酔について

手術の麻酔方法について、概説します。手術の麻酔方法には、大きく分けて、3通りあります。

  1. 局所麻酔
  2. 腰椎麻酔、硬膜外麻酔
  3. 全身麻酔

1. 局所麻酔

手術を行う部位に、局所麻酔薬を直接注射して、手術を行います。鼠径部の領域の神経ブロックを一緒に行う事もあります。局所麻酔薬は、薄めて使用する場合もあります。

皮膚の麻酔から開始して、手術のステップごとに、少しずつ局所麻酔薬を追加しながら手術を進めます。

局所麻酔法の最大の利点は、非常に簡便な麻酔であり、全身麻酔や脊椎麻酔などに比べて、心臓や腎臓などの重要な臓器への負担が少なく、合併疾患を持つ高齢の方でも安全に手術を行うことができることです。

手術中、患者さんには意識があり、お腹に力を入れることができるので、腹圧をかけてもらいヘルニアの状態や、修復術後の状態を確認しながら手術を行うことができる点も重要です。麻酔の影響が少ないので、日帰り手術にも最適な麻酔と言えます。

欠点としては、手術室での話し声や手術器具の音がバッチリ聞こえてしまうため、患者さんが不安になってしまう場合があること、手術中に痛みではなく、なんとなく圧迫されたような感じ、引っ張られるような感じがわかることがあること、途中で尿意をもよおし我慢できなくなってしまう場合があること、通常手術時間は1時間ほどですが、腰や肩が痛くなってしまうことがあること、などです。

あまりにも不快な場合は、鎮静薬を併用することがあります。

局所麻酔による手術では、術前の食事制限はありません。ただ、あまりに多く召し上がって手術に望むと、緊張のため、吐き気を催すことがありますので、直前の食事は少なめにしていただいております。手術室に入ってから、手術のための点滴を行います。手術を行っている間の、万が一の緊急時に対処するためです。

手術が安全に終われば、点滴は手術室で抜いてしまうことが多いです。

手術室から出る場合は、歩行でも可能ですが、車椅子を使用していただきます。

トイレには、すぐにいけます。術後、一時間ほどで、水分摂取、経口摂取が可能です。

2. 腰椎麻酔、硬膜外麻酔

腰椎麻酔は、おそらく、鼠径ヘルニア修復術に対し、最も多く行われてきた麻酔法です。

しかし、術中の血圧低下、術後の頭痛、吐き気、排尿障害、下肢のしびれ、硬膜外血腫などが起こることがあり、最近は行わない施設も増えています。

硬膜外麻酔は、局所麻酔薬と併用される場合があります。

腰椎麻酔は、外科医が行う場合もありますが、硬膜外麻酔は、専門の麻酔科医が行う場合が多いと思われます。腰椎麻酔の場合は、早期に動きすぎると、頭痛、吐き気などの合併症を起こすことがあるため、以前は、術後の安静が重要と考えられていました。

現在は、ベッド上の安静や水分摂取が、腰椎麻酔後の頭痛を予防しないことがわかってきたため、安静は麻酔の効果が切れるまでで十分とされています。その後、問題が無ければ食事が始まります。

脊髄麻酔を行った場合は、術後に排尿障害を来す場合が多いので、尿道カテーテルを留置することがあります。

3. 全身麻酔

全身麻酔は、専門の麻酔科医が行います。最も安全な麻酔方法です。患者さんにとっての一番のメリットは、何といっても寝ているうちに手術が終わってしまうという点です。

通常は、気管内に管を入れ、手術の間は、人工呼吸器で呼吸管理を行います。

鼠径ヘルニア修復術は、短時間で終わる手術なので、気管内には、管を入れず、ラリンゲルマスクという喉頭を覆うマスクのような器具を用いて呼吸管理を行う場合があります。これだと術後に気道の違和感、喉がゴロゴロする感じなどもほとんどありません。

全身麻酔の場合、患者さんによっては、尿道カテーテル(おしっこの管)が絶対に嫌という方がいます。局所麻酔の手術では、尿道カテーテルは使用しません。

先にも述べましたが、ヘルニアの手術は短時間で終わりますので、全身麻酔でも、尿道カテーテルを入れない、という施設が増えています。

全身麻酔の場合は、前日夕食まで、食事が可能です。

手術当日は、手術の2時間前まで、飲水ができます。スポーツドリンクや、水、お茶などは飲めますが、乳製品や果汁入りのジュースなどは控えていただいています。

手術後、病室に帰室後、3時間ほど、ベッドで安静にしていただきます。

3時間程度で、麻酔は完全に覚めますので、その後、トイレ歩行、水分摂取をしていただき、問題なくできるようであれば、食事が始まります。食事ができれば、点滴は抜いてしまいます。

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