足の付け根の膨らみが気になったら医師に相談してみよう
鼠径ヘルニアについてお医者さんに聞きました
足の付け根のところに出たり消えたりする膨らみがある。それは「鼠径ヘルニア」かもしれません。自然には治らないので、痛みがなくても、いつもかかっているお医者さんに相談してみましょう。今回は、鼠径ヘルニアに詳しい東邦大学医療センター大森病院の島田長人先生と佐々木陽典先生に、外科と内科のそれぞれの立場からお話を伺いました。
東邦大学医療センター大森病院総合診療・急病センター(内科)講師
佐々木陽典 先生
足の付け根に腸の一部などが皮膚の下に飛び出す鼠径ヘルニア
「鼠径ヘルニア」とはどんな病気ですか。
島田:鼠径ヘルニアは、足の付け根のあたりに膨らみができる病気です。これは筋肉のすき間から腸の一部などが飛び出すもので、「脱腸」という言葉で広く知られています。立ったときやお腹に力を入れたときにぽこっと膨らみますが、横になると消えてしまいます。人によっては痛みや、お腹が引っ張られるような違和感、不快感を訴える方もいます。
「鼠径ヘルニア」という言葉は聞いたことがなくても、「椎間板ヘルニア」なら耳にしたことがあるかもしれませんね。「ヘルニア」は「臓器などの一部が飛び出してしまうこと」を意味します。よって、「椎間板ヘルニア」は椎間板で発生するヘルニアのことを言い、「鼠径ヘルニア」は鼠径部で発生するヘルニアのことを言います。
外科手術の中で、鼠径ヘルニアの手術が最も多いと知ったら驚かれるでしょう。日本では1年間に15万件くらい鼠径ヘルニアの手術が行われています。鼠径ヘルニアは自然に治ることはなく、治療は手術しかありません。
重症になることはありますか。
島田:嵌頓(かんとん)といって、飛び出した腸などが戻らなくなり、腸が腐ってしまう状態になると、緊急手術が必要になることがあります。
鼠径ヘルニアはどんな原因でなるのでしょう。
島田:高齢の男性に多く、家族歴、例えば「祖父も父もやりました」という患者さんもいて、遺伝的な要因が指摘されています。その他には、やせ、肥満といった体の状態、荷物を運ぶなど力仕事や声楽などお腹に力がかかる職業、呼吸器に病気があって咳が続く人、喫煙者、それから前立腺の全摘術を受けた方などはなりやすいとされています。
まずかかりつけ医に相談を
気になったらどんな病院を受診したらよいのですか。
佐々木:診断や治療の面では外科を受診するのがよいのですが、最初から外科を受診するのは抵抗があるという方も多いようです。その意味では、かかりつけの先生やふだん別のことで通っている内科医に相談するのがよいと思います。ただし私の経験では、他の病気で内科を受診している時に、積極的に鼠径ヘルニアを相談する患者さんはあまりいません。内科の病気ではなさそうなので話さなくていいと思っておられるようです。そこで私は、患者さんの帰り際に「何か気になることはありませんか」と声をかけることにしています。すると、「そういえば」などと、鼠径ヘルニアの話をされる方もいます。
島田:膨らみができる場所が陰部に近いので皆さん恥ずかしいのと、膨らみができてもすぐ元に戻るので、放置する方が少なくないようです。しかし、患者さんの方から勇気をもって相談してもらうことが大切です。というのも、痛みや違和感があって受診しても、膨らみが出ることを医師にはっきり伝えないと、ベッドに横になって診察をすることが多いため、膨らみが消えてしまい、正しく診断できないからです。
高齢者は周囲の気づきも必要に
周囲の人ができることはあるのでしょうか。
佐々木:気になるのは、寝たきりに近い状態で介護を受けて生活している高齢の患者さんです。そういった方は自分から症状を伝えられず、発見が遅れがちです。本人も家族も気づかなかったけれど、施設の人が入浴介助のときに発見して、病院に連れてくるといったケースもあります。その意味で、家族の方や介護施設などの職員の方が、鼠径ヘルニアの知識を持っているとよいかもしれません。
最後のまとめとして注意点を教えてください
島田:鼠径ヘルニアは、自分で気がついても病院やクリニックの受診をためらう人が少なくありません。膨らみのできる場所や、「脱腸」という通称に「恥ずかしい病気」というイメージがあることも、伝えにくい原因のひとつかもしれませんね。実際、米国では鼠径ヘルニアの手術数が年間80万人程度と日本の5倍以上で、人口比率を考えても日本の手術件数は少ない印象です。日本では、医師にかからない潜在患者が多いということでしょう。
佐々木:どの診療科の医師も、患者さんの心配事を重要だと考えていますので、膨らみなど気になることがあったら、遠慮せず医師に伝えていただきたいと思います。
ありがとうございました。
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