鼠径ヘルニア最新メッシュ治療
「形状記憶」で穴ふさぐ(2005年4月4日 読売新聞)
東京都内で食品卸業を営むAさん(54)は昨年、右太もものつけね近くに違和感を覚え、そこが鶏卵大に軟らかく盛り上がっているのに気付いた。横になって力を抜くと平らになったが、仕事で重いものを運ぶことが多く、膨らみは次第に目立つようになった。また、なんともいえない鈍い痛みを感じた。東京慈恵医大病院の医師は、筋膜(筋肉)の穴から腹膜や腸などの臓器が皮膚の下に飛び出す鼠径(そけい)ヘルニアと診断。形状記憶のメッシュで穴をふさぐ手術を受け、今では以前と変わりなく仕事に打ち込んでいる。
人の体は、骨や筋肉で守られているが、部分的に弱点もある。その一つが、太もものつけねの鼠径部。男性では、精巣に行く血管や精子を運ぶ精管、女性では子宮を支えるじん帯などが、内臓を守る筋膜を貫いており、筋膜に開いたこの小さな穴(内鼠径輪)が加齢と共に緩んで広がることなどにより、成人の鼠径ヘルニアが起こる。
慈恵医大病院外科の三沢健之さんは「自然に治ることはなく、悪化すると腸閉そくや腹膜炎を招くこともある」と注意を促す。国内の手術件数は年間14万~15万件。患者の8割以上が男性で、女性と比較して内鼠径輪がもともと大きいためと見られている。
内鼠径輪など、ヘルニアが出てくる穴をヘルニア門と呼び、従来の治療法は、この広がったヘルニア門を縫い縮める方法だった。しかし、加齢で弱くなった筋膜などを引き寄せて穴を縫い縮めると、患部が突っ張る感じが残る。重いものを持つなどして腹圧がかかると、縫った部分や周辺が裂けてしまうこともあり、再発率は約10%と高かった。手術後、1週間以上の入院も必要だった。
これに対し、1990年ごろから広まったのが、ポリプロピレン製の人工膜で筋膜の穴をふさぐメッシュ法。筋膜などの組織を引き寄せる必要がなく、患部に無理な力がかからない。傷が小さいため局所麻酔で済むこともあり、医療機関によっては日帰り手術も可能なため、急速に広まった。
当初は、筋膜の穴の上にメッシュをかぶせて固定する方法だった。その後メッシュを筋膜の下に入れる方法が現れ、強度が改善されたため、再発率は約1%にまで低下した。

現在主流になっているのは、筋膜の穴にメッシュをはめ込む「メッシュ・プラグ法」や「PHS(プロリン・ヘルニア・システム)法」。メッシュ・プラグ法は、傘状のメッシュを穴に入れ、上から別のメッシュをかぶせて補強する方法。PHS法は、一体化した2枚のメッシュで穴を上下から補強する方法だ。
また、最近注目されているのが、形状記憶のメッシュ(クーゲルパッチ)を使った「クーゲル法」。鼠径部を5センチほど切開し、筋膜の下にメッシュを差し込む。筋膜と腹膜の間に入る形となり、体内で元の形に戻って腹圧で固定されるため、縫い付ける必要もない。三沢さんは「穴を内側からより広い範囲で補強する方法は、力学的に見てもさらに強度が高い」と指摘する。
メッシュ法で懸念されるのが、異物を体内に入れることによる拒絶反応だが、「ポリプロピレンは手術の糸などにも使われ、異物反応の心配がないことは十分証明されている」と三沢さん。メッシュ法には保険が適用される。
ただ、子供の鼠径ヘルニアの治療にメッシュを使うと、成長にともなって患部に無理な力がかかることが懸念されるため、子供の場合はメッシュ法は行われない。(佐藤 光展)
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