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専門医に聞く鼠径ヘルニアの治療

加齢で増える鼠径ヘルニア(そけいヘルニア)

~人工補強材を使った手術で日帰り治療が可能に~

俗に「脱腸」の名で知られる鼠径ヘルニア(そけいヘルニア)は、老化現象のひとつ。最近は手術の方法が進歩し、体の負担が少ない日帰り手術も可能になっています。数多くのヘルニア手術を手がけてきた「みやざき外科・ヘルニアクリニック」の宮崎恭介院長に話を聞きました。

筋膜が弱り腸が飛び出す根治には手術が必要

鼠径ヘルニア(そけいヘルニア)とはどのような病気ですか。

宮崎:
臓器や組織が本来あるべき場所から脱出した状態のことをヘルニアと言います。鼠径ヘルニア(そけいヘルニア)は、足のつけね(鼠径部:そけいぶ)の筋膜が裂けて隙間が開き、内側にある小腸や大腸が腹膜ごと外に飛び出してきたものです。(イラスト参照)立ったときやおなかに力を入れたときに、鼠径部(そけいぶ)にポッコリとした軟らかい腫れができます。

クーゲル法による鼠径ヘルニア手術イメージ-なぜヘルニアになるのでしょうか。
宮崎:
子供のヘルニアは先天的なものですが、成人の場合は加齢によって筋膜が弱くなることが主な原因です。鼠径部(そけいぶ)の筋膜にはもともと裂けてヘルニアになりやすいところが3ヶ所あるのですが、その部分が加齢でさらに弱くなり、長年の力仕事などによる負担も加わってヘルニアが生じるのです。できた場所によって外鼠径ヘルニア(外そけいヘルニア)、内鼠径ヘルニア(内そけいヘルニア)、大腿ヘルニア(だいたいヘルニア)と呼んでいますが、2つ以上のヘルニアを持っている患者さんも1~2%おられます。男性患者は女性の3倍と圧倒的に多く、50代から患者が急増します。

ヘルニアは薬では治らないのでしょうか。

宮崎:
ヘルニアは自然に治ることはありません。有効な薬物療法もないので、根治のためには手術が必要です。痛みや張りが強い、ヘルニアが出たまま押しても戻らないというような場合は手術をしたほうがいいでしょう。良性の病気ですから、ヘルニアが出たり入ったりで痛みもないという人は急いで手術をする必要はありません。しかしヘルニアが出るというのはご本人にとっては非常にうっとおしいもので「下腹部に違和感があっていつも気になる」「友人と温泉にも行けない」と悩んでいる方も非常に多いのです。ヘルニアがQOL(生活の質)を低下させているようなら手術をお勧めします。

従来法の欠点を補う手術が登場

日帰り手術が可能に

手術法が以前とはだいぶ変わってきているそうですね。

宮崎:
10年ほど前までのヘルニア手術は、隙間の開いた筋膜と筋膜を引き寄せて縫合する方法が一般的でした。しかしこの方法では、術後の痛みやつっぱり感が残り、一週間程度の入院が必要です。また、もともと脆弱な筋膜を縫合するので10~15%は再発していました。
最近では筋膜の隙間をポリプロピレン製のメッシュのシートで塞ぐ手術が主体となっています。メッシュのシートは筋膜と腹膜の間に当てるだけ。筋膜と縫い合わせることはなく、術後の痛みやつっぱり感が少ないため、短期入院や日帰りで手術できるようになりました。
シートは隙間の開いたヘルニアの患部だけでなく、ヘルニアが生じやすい3ヶ所をすべてカバーするように措置します。ヘルニアの患者さんは鼠径部(そけいぶ)の筋膜全体が弱くなっているので、他の場所から新たにヘルニアが出てこないよう予防措置もしておくわけです。
留置したシートには周囲の組織が入り込んで適度に固くなり補強材の役目をしてくれるため、再びヘルニアが脱出することはほとんどなく、再発率は1%以下になりました。

手術は30分で終了
感染対策も万全

-先生のクリニックでは全例日帰り手術をしているそうですが、初診から手術までの流れを教えてください。
宮崎:
通常は初診時にヘルニアかどうかを診断します。鼠径部(そけいぶ)の膨らみは炎症やがんなどによるリンパ節の腫れの場合もあるので慎重な診断が必要ですが、熟練した医師であればほぼ確実に鑑別できます。そして患者さんがヘルニアの手術を希望される場合は心電図やレントゲン、血液検査など術前に必要な検査をその日のうちに行います。
手術前日までは食事や運動など生活に何ら制限はありません。当日の朝は食事をせずに、手術の30分前に来院してもらいます。局所麻酔をしたあと、まず鼠径部(そけいぶ)を4センチほど切開。腹膜と腸を元の位置に戻し、戻した腹膜と筋膜との間にメッシュのシート置き、隙間を塞ぎます。皮膚を縫合して手術は終了。手術時間は30分程度です。

日帰りしても大丈夫なのですか。

宮崎:
安心して日帰りできる理由が二つあります。
まず一つ目は、完全に眠ってしまうような全身麻酔は使用しないこと。呼びかけると目を覚ます程度の軽い全身麻酔に、局所麻酔や硬膜外麻酔を併用しています。これらの麻酔でも除痛効果は充分ですし、術中患者さんと話もできるので、逐一患者さんの状態を確認できます。また回復が早く、1時間後には歩いてトイレにいけるほど。3~4時間後には帰宅できます。
二つ目は、感染対策を徹底していること。切開部の縫合にはすべて吸収性の糸を使うので抜糸はしません。さらに縫合した皮膚の表面には、特殊接着剤を塗ります。特殊接着剤はすぐに乾いて創部をがっちり保護してくれるので消毒の必要もありません。退院後の夕方からシャワー浴もできますし、3日後からはお風呂にも入れます。私の所では手術の7~10日後に創部の状態を確認して治療は終了。経過が良ければ、来院するのは手術日を含めて3日間だけです。

安心して手術を受けられるようになってきているのですね。

宮崎:
鼠径ヘルニア(そけいヘルニア)の手術は、熟練した医師が行えば、危険なものではありません。健康保険も適用されます。手術によって長年の苦しみから開放され、快適に過ごしている方もたくさんおられますので、ぜひ医師に相談されることをおすすめします。

Drmiyazaki

医療法人社団 みやざき外科・ヘルニアクリニック
宮崎恭介院長
1966年函館市生まれ。91年聖マリアンナ医科大学卒。北海道大学病院、手稲渓仁会病院などに勤務。98年北海道大学医学部大学院修了。2003年4月札幌市にみやざき外科・ヘルニアクリニックを開業。
医学博士、消化器外科専門医・指導医、麻酔科標榜医、アメリカヘルニア学会会員、日本ヘルニア研究会世話人、第2回日本短期滞在外科手術研究会会長

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キーワード: メッシュ, 人工補強材, 鼠径ヘルニアの治療, 内鼠径ヘルニア, 大腿ヘルニア, 鼠径部, 老化現象, 加齢, 筋膜, 外鼠径ヘルニア
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